生物展示ホール

山の高さや地形などにより、そこに自生する植物や動物の種類は異なります。季節によって植物の様子は変化し、時刻によって現れる動物も入れ替わってゆきます。
生物展示ホールでは、埼玉を代表する森林と、そこにすむ動物の姿を、高さ8メートルの大ジオラマで紹介しています。
かつては、身近にあった雑木林、訪れるには何時間もかかる亜高山の原生林、紅葉の美しいブナ林、鍾乳洞(しょうにゅうどう)の知られざる暗黒の世界など、展示ホールに足を踏み入れると、森の中に入ったような臨場感が感じられるほど精巧なジオラマです。
どこにどんな動植物がみられるのか、動物たちは今なにをしているのか観察してみてください。

冬枯れの雑木林と池や沼

夕暮れの低湿地、ハンノキ林と池や沼の様子です。木枯らしの吹く水辺では、マガモやコガモなど、日本で冬を越すために北の国から渡ってきた冬鳥が羽を休めています。

雑木林のコナラは昔から薪や炭として用いられてきました。切ってもまた切株から新しい芽を出すため、一つの株からいくつもの幹が育っています。落ち葉は畑の肥料としても重要でした。人々の生活に役立ってきた雑木林は、人の営みによって維持されてきた自然といえます。林内には、アズマネザサや常緑のヒサカキがみられます。


冬の水辺(ジオラマ)

コナラ

ブナ科の落葉樹で、県南部の台地から山地までよくみられます。切り株から芽をだして成長し、ふたたび林をつくります。根元から幹が何本もでているのはこのためです。炭に焼くと良質の堅炭になるので好んで利用されました。またシイタケ栽培の原木としても使われています。


コナラ(ジオラマ)

みどりのこい夏のアカマツ林

夜明け前のアカマツ林の様子です。アカマツの下にみられる背の低い樹木は、平地と山地で種類が異なります。平地ではヤマツツジやエゴノキが、山地ではミツバツツジやリョウブがみられます。

林内ではキツネが立ち上がり、ネズミに飛びかかろうとしています。食うものと食われるものの関係です。イノシシは台地から丘陵、低い山地にかけて生息し、時には人家近くにも現れて畑などをあらします。

山地の岩の露出した尾根などには天然のアカマツ林もみられますが、台地や丘陵のアカマツ林の多くは、燃料や建材のために人の手によって維持されてきました。現在はほとんど利用されなくなったことにより、遷移(せんい)の進行や、松枯れによって、コナラや常緑樹の混じった林に変化しているところが多くあります。


ネズミを狙うキツネ(ジオラマ)


林内のイノシシ(ジオラマ)

ムササビ

まん丸の目と、頬(ほお)の白い線が特徴で、アカマツやカエデの種子、木の葉などを食べています。フンは丸く直径5~10mmほどです。日が暮れてから活動する夜行性です。前足と後足の間にある膜を広げて、グライダーのように木から木へ飛び移ります。


ムササビ(長瀞町で撮影)

いろどられるブナ林と渓流

秋、よく晴れた日中のブナ林の様子です。ブナ林は、山地帯上部(標高800〜1,600m付近)の肥沃なところにみられます。秩父では昔から炭焼きなども行われ、ミズナラなどの二次林やスギ・ヒノキの植林になっている場所が多く、県内にはわずかに残るだけです。

ブナやミズナラの実は動物たちのエサとして重要です。年によって豊作、不作があるため動物の生息にも大きく影響します。 林内にはスズタケが密生していましたが、現在はホンシュウジカの増加により、かつてほどはみられなくなっています。渓流は水が澄んでいて 水温も低く、ヤマメやイワナが生息しています。大きな岩場では、ニホンザルの群れがくつろいでいます。


ホンシュウジカ(ジオラマ)

コハウチワカエデ

高さが10mほどになる落葉樹で、1枚の葉が7~13に切れこみます。
北海道をのぞく、各地の山に生えています。秩父山地でもところどころでみられ、ナツツバキやサラサドウダンなどとともにブナ林を構成します。イタヤメイゲツともよばれ、春の芽吹きや秋の紅葉は人目をひきます。


コハウチワカエデ(ジオラマ)

石灰岩にきざまれた自然の造形

秩父地方には、切り立った岩壁となる石灰岩地が多くみられます。石灰岩の中にできた割れ目は水によって少しずつとかされ、けずられて、やがて鍾乳洞ができます。洞の中には、鍾乳石や石筍(せきじゅん)などがみられ、洞内の気温は一年を通してほぼ一定です。

鍾乳洞の内部には光が届かないので植物は育ちませんが、暗黒の世界に適応した動物たちが生息しています。その代表がコウモリの仲間です。頭上にはウサギコウモリやキクガシラコウモリなどが、昼間はひっそりと休んでいます。夜になると外へと飛び立ち、飛びながら昆虫などを捕食します。また、冬期にはこのような場所で冬眠します。


鍾乳洞(ジオラマ)

チチブイワザクラ

5~6月にピンク色の可憐な花が咲きます。根は、石灰岩の割れ目に入り込んで体を支えます。葉や花の柄には赤い毛があります。
武甲山には、チチブイワザクラをはじめ貴重な石灰岩植物が生育している場所があり、まとめて国の天然記念物に指定されています。


チチブイワザクラ(レプリカ)

シャクナゲ咲く初夏の原生林

奥秩父十文字峠(標高2,020m)付近の、6月上旬頃のようすです。朝日が林内にさしこみはじめ、ムササビは眠りにつこうとしています。亜高山帯にみられるコメツガやシラビソといった常緑針葉樹の下にはアズマシャクナゲが咲き、林床にはツバメオモトやマイヅルソウが白い花を咲かせています。

標高2,000mを越える山々が連なる奥秩父は、ツキノワグマをはじめとする野生動物を育みます。岩場にはカモシカも現れます。断崖にはイワツバメが巣をつくり、ヒナを育てています。


アズマシャクナゲとツキノワグマ(ジオラマ)

ホテイラン

5~6月に花が咲きます。花の形を七福神の布袋様に見立てて名づけられました。花の中には茶色の模様があります。葉は濃い緑色で、ふちや表面がちぢれます。育ちやすい環境が減ってしまったり、美しい花を欲しがり盗掘してしまう人がいるため、絶滅の危機に瀕しています。


ホテイラン(ジオラマ)